RC梁のせん断破壊再現解析その3
DIANA Tips 2023.01.26RC梁のせん断破壊再現解析を行う際の設定パラメータの一つである等価要素長について,解析結果へどのような影響を与えるか本コラムで検証を行います.
1.等価要素長
コンクリートのひび割れ発生後の引張軟化は下図に代表されるような引張軟化曲線で表すことが出来ます.
図は左右どちらもコンクリート標準示方書の二直線モデルを表しています.ここで,破壊エネルギーGfとは単位面積当たりのひび割れが完全に開口するまでに消費されるエネルギーのことであり,一般にコンクリート強度と粗骨材最大寸法より求めることが出来ます.
有限要素法では破壊エネルギーは1要素ごとに消費されるので,要素寸法による寸法依存性を回避するため,左図横軸のひび割れ幅wをひび割れの方向・要素形状・要素寸法等が考慮された等価要素長hを用いて引張ひずみεに変換することで,要素寸法が異なる場合でも破壊エネルギーが変わらない応力-ひずみ関係(右図)としています.
DIANAでは等価要素長を設定する際にRotsやGovindjeeにより提唱されている方法を選択できる他,任意の値を設定することも出来ます.
本検討では,初めに1辺が50mmのソリッド1要素のみの解析モデルに対し,等価要素長の条件のみ変更することで応力-ひずみ曲線への影響を確認し,次に以前のコラム(RC梁のせん断破壊再現解析)で用いた供試体を1辺が50mmの立方体要素のみで構成するようリメッシュし,同様に等価要素長の条件のみ変更することで最大荷重への影響を確認します.
2.解析モデル(1要素)
下図に1辺が50mmのソリッド要素一つのみの解析モデルを示します.メッシュ次数は1次としています.
材料構成則,収束法は以前のコラム(RC梁のせん断破壊再現解析)と同様にしています.境界条件は底面鉛直固定,側面は鉛直ローラーとし,荷重は変位制御とし1ステップあたり0.001mmを要素上面に+Z方向に0.3mmまで漸増載荷しました.
等価要素長は要素の対角線長さとする方法や要素面積の平方根,要素体積の三乗根とする方法等がありますが,はっきりとした定義はありません.
本検討では,引張軟化に先述したコンクート標準示方書の二直線モデルを適用し,等価要素長を25,50,75mm,およびRotsによる手法での自動計算(体積の三乗根)に変更し解析を行います.
3.解析結果(1要素)
ソリッド1要素のみの解析モデルの解析結果(応力-ひずみ曲線)を下図に示します.
引張強度ft=2.14N/mm2までは同じように応力が増えていき,ピーク後は等価要素長が大きくなるに従い応力-ひずみ曲線下の面積が減少(=破壊エネルギーが減少)していることが確認出来ます.また,Rotsによる手法はソリッド要素に適用した場合体積の三乗根を等価要素長として設定するため,本検討では50mmと同じ結果となっています.
このことから,以前のコラム(RC梁のせん断破壊再現解析)の解析モデルで同様に等価要素長を変更した場合,等価要素長が大きくなるにつれて最大荷重は小さくなると予想されます.
4.解析モデル(リメッシュ)
以前のコラム(RC梁のせん断破壊再現解析)で用いた供試体を1辺が50mmのソリッド要素のみとなるようリメッシュした解析モデルを下図に示します.
要素サイズ以外の解析条件は以前のコラム(RC梁のせん断破壊再現解析)と同じように設定し,等価要素長を25,50,75mmおよびRotsによる手法での自動計算(体積の三乗根)に変更し解析を行います.
5.解析結果(リメッシュ)
リメッシュモデルでの解析結果(荷重-変位曲線)を下図に示します.
予想通り,等価要素長が大きくなるにつれてコンクリート1要素で消費される破壊エネルギーが小さくなり,最大荷重が小さくなっています.また,1要素モデルと同様にRotsによる手法は本検討ではh=50mmの結果と等しくなっています.
一点予想外だったのは,要素長50mmや平面で見た際の要素の対角線長さに近い75mmより等価要素長h=25mmのケースが最も実験値と近い値となったことです.おそらくソリッド要素にアイソパラメトリック2次要素を用いたことで中間節点が作成され,節点間距離が25mmとなったことが原因かと思われますが,詳しくは不明なので今後の課題といたします.
(DIANAにおけるRotsによる等価要素長の自動計算は三次元の二次要素には対応していないようです)
6.まとめ
等価要素長を大きくすることで,コンクリート1要素で消費される破壊エネルギーが小さくなり耐力が低下することが確認出来ました.全て同じ要素サイズでモデルを作成できる場合は設定も容易ですが,実務では一つのモデルに対し複数の要素サイズがある場合が多いため,どの程度の厳密解を求めるかによりますが設定には注意が必要です.
参考文献
1)2017年制定 コンクリート標準示方書:土木学会