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コーベルの検討

DIANA Tips 2023.02.28

1.はじめに
 はり高が支間に対して大きい部材は「ディープビーム」と分類され,さらに柱前面より荷重作用位置までの距離とはりの高さの比が1.0以下の片持ばりは「コーベル」と呼ばれ,RC橋脚の張出しはり部,落橋防止突起の設計ではコーベルとしての照査が必要となります.コーベルに漸増荷重を与えると,斜めひび割れが発生した後,タイドアーチ的な性状を示しながら耐力が増加し続け,引張鉄筋の降伏あるいはアーチリブに相当する腹部コンクリートの圧壊(せん断破壊)で全体的破壊に至ります.
 引張力の計算は各基準で手法が異なること,また側面に配置する用心鉄筋の耐力に及ぼす影響について具体的に規定された文献が少ないことから,本レポートではコーベルのひび割れ解析を実施し,それらに対する知見を纏めました.

図-1 コーベル

 

2.コーベルの設計
 コーベルは水平引張材と傾斜した圧縮材から構成されるトラスとしての耐荷機構を考慮して設計する必要がありますが,表1に示すようにコンクリート標準示方書(以降,“コン標示”と略記)と道路橋示方書(以降,“道示”と略記)で荷重方向の辺長の考え方が異なります.具体的には荷重Pが既知とすると,dではなく0.85dの方が引張力Tの方が大きくなることから,コン標示と比して道示の方が必要となる引張鉄筋量は多くなります.

表-1 トラス耐荷機構概念図の違い

 一方,用心鉄筋については以下の構造細目がコン標示,道示両ともに規定されており,腹部に発生する斜めひび割れ進展の制御,かつ荷重作用点での割裂破壊の対処が期待されています.

コーベルの側面には,引張主鋼材の40%以上の用心鉄筋を300㎜以下の間隔で配置しなければならない.

 

3.解析概要
 解析モデルを図-2に示します.境界条件は柱部下端とX(―)側面のX方向拘束とし,荷重は強制変位入力(1ステップ当たりΔδ=0.01㎜)としました.

図-2 解析モデル

 解析モデルの配筋を図-3に示します.側面用心鉄筋あり,側面用心鉄筋なしの2モデルを対象とし,引張主鉄筋はD25を3本配置し,側面用心鉄筋は引張鉄筋の40%以上となるように,D13を250㎜間隔で配置しています.なお,柱部はひび割れを許容するものの鉄筋は降伏点に到達しないように充分な配筋量としております.
 なお,本モデルのa/dは,450/650=0.69,用心鉄筋を考慮せず引張主鉄筋のみ考慮した引張鉄筋比はpv=0.78%となり,コンクリート標準示方書でディープビーム,コーベルの耐力計算に使用することが規定されている「Vdd:設計せん断圧縮破壊耐力」は,542kNとなります.

コンクリート標準示方書[設計編]より引用

コンクリート標準示方書[設計編]より引用

 

図-3 配筋状況(左:用心鉄筋なし,右:用心鉄筋あり)

 計算に使用した解析物性値を表-2に示します.固定ひび割れモデルを使用し,コンクリート・鉄筋間の付着すべりを考慮しております.

表-2 解析物性値

 

4.計算結果
 荷重変位関係を図-4に示します.解析結果の最大荷重値は,ほぼコン標示のVddを再現できています.さらに,用心鉄筋があるケースは,用心鉄筋がないケースと比して耐力が2割向上することがわかります.

図-4 荷重変位関係

 ひび割れ状況を表-3に示します.まずコーベル付根の隅角部に曲げひび割れが発生,その進展が止まった後,斜めひび割れが中央から発生し外面まで到達したステップで図―4の荷重ピークを呈することがわかります.用心鉄筋のない場合と用心鉄筋のある場合でひび割れの発生領域および発生ひずみに顕著な差は確認できません.

表-3 ひびわれ図

 

 最大荷重時の水平方向の鉄筋応力度を表-4に示します.用心鉄筋のないケースと用心鉄筋ありのケースで引張主鉄筋の応力度はほぼ同程度ですが,載荷点に近い位置の用心鉄筋は降伏レベルの応力が発生しております.これが先述の最大荷重値の差を生じさせているものと考えられます.

表-4 最大荷重時における鉄筋応力度

鉄筋応力度を元に,前述のトラス概念図での荷重方向の辺長を逆算した結果を表-5に示します.道示の「0.85d」ではなく,コン標示の「1.0d」に近いことが確認できます.

表-5 逆算辺長

 

5.まとめ
今回の解析で得られた知見を以下に纏めます.
・コーベルの設計引張力は道路橋示方書よりコンクリート標準示方書に規定されているトラス機構概念図の方が解析結果に近い.道路橋示方書ではなく,コンクリート標準示方書に準拠することで,例えば後施工の落橋防止突起のように施工空間に制約のある条件下で合理的な設計が期待できる.
・用心鉄筋のないモデルのせん断耐力はVdd(:コン標示で規定されるせん断圧縮破壊耐力)に近く,用心鉄筋のあるモデルでは耐力の向上が期待できますが,“用心”程度の鉄筋径を使用した場合は降伏点に到達する可能性があります.

参考文献
1)土木学会:2017年制定コンクリート標準示方書,設計編,2018.3
2)日本道路協会:道路橋示方書・同解説(Ⅲコンクリート橋・コンクリート部材編),2017.11

(縞)

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