多目的ダムの矛盾 〜ダムの緊急放流問題に思う〜
技術屋のひとり言 2018.12.03今年7月5日から8日にかけて、西日本地方が平成最大の水害となる西日本豪雨災害に見舞われた。この際に行われたダムの緊急放流が問題になり、マスコミなどでも大きく取り上げられた。この話題に関して、少し考えさせられたことがあったので一筆。
私は、秘湯と呼ばれる温泉(大体が奥深い山中にある)に、ダム好きまたはダムに詳しい友人と良く行くため、その道中で、ダム見学に立ち寄る機会が多い(そのため、今プチブームのダムカードは10枚ほど溜まった)。しかし、ダムにさほど詳しいわけではなく、土木技術者の端くれとしてある程度のダムの施工に関する知識があり、ダムの目的も高校の社会科で習う範囲内で知っている程度である。
そんな私が、西日本豪雨災害の少し後に一緒に秘湯に行った、ダムに詳しい友人の話が気になった。
その内容は、
①一般的に、ダムは一般的に治水(洪水調節)と利水(上水、農業用水、工業用水等の供給)のある意味矛盾した2種類の目的を持っている
②台風等の大雨の際に、この矛盾を両立させるべく、ダムの放流量を決めるのがダム管理者の腕
③西日本豪雨の際、ダムの緊急放流が非難されているが、過去にない異常豪雨の際にこの調整は非常に難しい
ネットを調べてみると、西日本豪雨災害の際に緊急放流をしたダムは6府県8ダムとあるが、調べた限りでは、名前がわかったダムは表にある5ダムである。これらのダムの目的はいずれも治水と利水を兼ねている。
※目的は「ダム便覧」(一般財団法人日本ダム協会)を参照
言われてみると、通常のダムの水位をどうしておきたいかは、治水目的と利水目的では大きく異なる。治水目的では大雨に備えて水位を低くしておきたいが、利水目的では渇水時に備えてできるだけ高く保ちたい。
今回の豪雨は7月初めであり、台風に備えて事前に水位を低くしたにも関わらず、雨が想定より少ない場合には、途端に水不足に陥る危険がある時期である。そのため、このジレンマはとくに大きい。
このようなことを考えると、当時、あまりにも一方的なバッシングがされていたように感じる。あれから5か月、西日本豪雨災害に関する報道等を目にすることは無くなったが、この災害により、どのような教訓が得られているのだろうか?