錯視とスポーツ
技術屋のひとり言 2020.11.041. はじめに
錯視とは、視覚に関する錯覚のことで、「目の錯覚」ともよばれるものである。同じ大きさなのに違う大きさに見える、まっすぐなのに曲がって見えるなどは錯視の一例である。
ここでは眼から得た情報が脳に伝わるまでのタイムラグによる錯視(フラッシュラグ効果)とスポーツとの関係について触れる。
2. フラッシュラグ効果とは
千葉大学 一川 誠教授によると、Nijhawanは、
「人間の視覚系においては,網膜に刺激が与えられてから知覚が成立するまでに約100 msecの遅れがあり,運動している刺激の処理においてはこの遅れを相殺するようなつじつま合わせが行われる.」 とされている。
下の動画は、この約100 msecの遅れの結果を表したものである。
青い円は、左から右に移動している。青い円がちょうど画面の真ん中にきたとき、その下でもう一つの青い円が一瞬現れる。この円と動いている円は実際には同一直線上にあるが、動いている青い円が若干右にずれて見える。動く青い円の速度が速くなるとそのずれ量は大きくなる。
3. サッカーにおけるオフサイド
錯視とスポーツの一例として、サッカーのオフサイドに関する事例をとりあげる。
サッカーにおける『オフサイドポジション』は、サッカー競技規則2020/21 p.99に「競技者は、競技者の頭、胴体、または足の一部でも、ボールおよび後方から2人目の相手競技者より相手競技者のゴールラインに近い場合オフサイドポジションにいることになる。」(一部文章省略)と記されている。
また同様に、『オフサイドの反則』は、「ボールが味方競技者によってプレーされたか触れられた瞬間にオフサイドポジションにいた競技者は、(一部文章省略)そのときのプレーにかかわっている場合にのみ罰せられる」と記されている。
オフサイドかオフサイドでないか悩むような微妙なオフサイドの誤審、あるいは周囲の人(チーム関係者や観客など)からの「オフサイド!」の声に対して、直後にスタジアムに流れるスロー映像を見ると、「オフサイドではない」ということがたまにあるのは、「フラッシュラグ効果」が原因であるという説は間違っていないと思う。
では、100 msecの間にどの程度のずれ量(サッカーでいえばオフサイドラインからの飛び出し量)が生ずるかを以下の式から求め、表にまとめた。
100m走をy秒で走る人の100 msec=0.1秒間のずれ量x cmは、
子供から足の速い人まで50cmから約1mのずれ量が生ずることになる。
11秒から20秒は、100m走のスタートダッシュからゴールテープを切るまでのタイムなので、トップスピードでオフサイドラインを通過する場合には、ずれ量はもっと大きくなる。
図で表現すると以下のようになる。
このようなシチュエーションではオフサイドではないのである。
4. おわりに
以上の記述は、インターネットで「フラッシュラグ効果」を検索すると多数あるが、戻りオフサイドについて触れているものは見かけない。
微妙な戻りオフサイドを図で表現すると以下のようになる。
戻りオフサイドの場合には、一般的なオフサイドの場合、つまりオフサイドとはならない場合とは異なり、ボールをプレーしにいこうとする競技者のスピードにもよるが、微妙なオフサイドの可能性もある。
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