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3次元液状化解析(FLIP ROSE 3D)

解析全般 2023.06.05

1.はじめに
 近年のコンピュータの性能が向上しており、液状化解析においても3次元解析が用いられるようになってきました。今回の技術ブログでは、3次元液状化解析(FLIP ROSE 3D(以下、FLIP3D))に関するテーマとして、「2.液状化対策工法の検討」、「3.過剰間隙水圧消散後の沈下」、「4.水平2方向地震力の入力」について取り上げます。

2.液状化対策工法についての検討
 液状化対策工法として、写真に示す格子状地盤改良工法のような改良体で液状化地盤を囲い込む工法があります。このような工法について有限要素法による解析(以下、FEM解析)を行うには、2次元FEM解析ではモデルが奥行方向に連続していることを前提としており、3次元効果を考慮することができないため、基本的に3次元モデルを用いる必要があります。

写真:格子状地盤改良工法の様子

 本検討では、FLIP3Dを使用して、図1および図2に示すような改良体で液状化地盤を囲い込むモデル(節点数12474、要素数23165)で解析を行いました。なお、液状化地盤のパラメータは、マルチスプリング要素の簡易パラメータ設定により、N値10、細粒分含有率Fc=0%、有効上載圧σ’v=98kN/m2から設定し、入力地震波は、道路橋示方書に示される-Ⅰ-1波を0.5倍に振幅調整した波を用いました。ここで設定した液状化強度曲線を図-3、パラメータの値を表1に示します。

図1:解析モデル(全体)

図2:解析モデル(A-A断面図)

図3:液状化強度曲線(マルチスプリング要素)

表1:パラメータ(マルチスプリング要素)

 過剰間隙水圧比コンター図を図4に示します。ここで、過剰間隙水圧比は、地震によるせん断変形が発生すると上昇し、一般的に過剰間隙水圧比が95%以上になった場合、完全液状化として評価されます。
 解析結果では、改良体の内側の方が外側よりも間隙水圧比が小さくなっています。この結果から、改良体によってせん断変形が小さくなり、過剰間隙水圧の上昇が抑えられたことが分かります。

図4:過剰間隙水圧比コンター図(モデル1/2表示)

 FLIP3D Ver2.0.0高速度版がFLIPコンソーシアムからリリースされ、ダイナミックアレイサイズが8憶から32億まで拡張さたことにより、大規模な3次元解析を行うことができるようになりました。
 今回は簡易的なモデルで検討を行いましたが、今後はより複雑なモデルでの検討を進めていきたいと思います。

3.過剰間隙水圧消散後の沈下
 FLIP3D Ver2.0.0から、排水解析を対象とするカクテルグラス要素が組み込まれました。これにより、非排水解析を対象とするマルチスプリング要素では計算ができなかった過剰間隙水圧消散後の沈下量を解析により求めることができるようになりました。
 「2.液状化対策工法の検討」で用いた解析モデルのマルチスプリング要素をカクテルグラス要素に変更して解析を実施したところ、膨大な解析時間が掛かることが判明したため、図5に示す単柱モデルで解析を行いました。なお、液状化地盤のパラメータは、カクテルグラス要素の簡易パラメータ設定により、N値10、細粒分含有率Fc=0%、有効上載圧σ’v=98kN/m2、透水係数k=10-3m/sから設定し、入力地震波は、道路橋示方書に示される-Ⅰ-1波を用いました。

図5:解析モデル(単柱モデル)

図6:液状化強度曲線(カクテルグラス要素)

表2:パラメータ(カクテルグラス要素)

 図7に過剰間隙水圧の時刻歴、図8に地表の鉛直方向変位時刻歴を示します。解析により過剰間隙水圧の消散に伴う地盤沈下量は0.45m程度で消散時間は1600秒程度であることが求められました。
 カクテルグラス要素を使用する場合は、マルチスプリング要素と比べ、水圧についての自由度が増えることから解析時間が大幅に増加します。FLIP3Dの通常版は、並列処理が導入されていないため、大規模な解析を行う場合には、並列計算を導入し、コンパイラオプションによる高速化を施した高速度版の使用をお勧めします。

図7:過剰間隙水圧の時刻歴

図8:地表の鉛直方向変位時刻歴

4.水平2方向地震力の入力
 従来の耐震設計で想定する水平1方向の地震力を入力したケースと水平2方向の地震力を入力したケースでは、土木構造物の地震応答特性値に違いが見られることが実験で確認されています。
 3次元モデルでは、水平2方向と鉛直方向の3方向について地震力を入力することができ、多次元の地震時挙動における入力と応力の関係について検討することができます。
 図9に示すカクテルグラス要素を用いたモデルにおいて、多方向地震力入力による応答値の妥当性を確認するため、道路橋示方書に示される-Ⅰ-1波を1/√2倍に振幅調整し、図5に示すモデルの水平2方向(X方向・Y方向)に入力したケースと水平1方向(X方向、振幅調整なし)に入力したケースで加速度の応答値を比較しました。なお、地盤のパラメータについては、「3. 過剰間隙水圧消散後の沈下」と同じ値を用いました。

図9:解析モデル図(2方向地震力入力)

 図10の加速度時刻歴及び図11の加速度応答スペクトルに示すように、水平2方向(X方向・Y方向)に地震力を入力したケースにおける地表面のモデル斜め方向(X軸45°方向)加速度応答値と水平1方向に地震力を入力したケースにおける地表面のX方向加速度応答値は一致した結果となり、カクテルグラス要素を用いた本モデルの応答値について、妥当性を確認することができました。
  今後は、様々な水平2方向の地震力の応答について検討を進めるとともに、土木構造物を含めてモデル化を行い、水平2方向の地震力を入力したケースにおける土木構造物の地震応答特性値の違いについても検討していきたいと思います。

図10:出力節点(地表面)の加速度時刻歴

図11:出力節点(地表面)の加速度応答スペクトル(h=5%)

5.おわりに
 今回の技術ブログでは、簡易的なモデルでFLIP3D通常版を使用して液状化対策工の3次元効果、過剰間隙水圧消散後の沈下、水平2方向地震の入力について検討しました。FLIP3Dの高速度版がリリースされたことで、大規模なモデルを短時間で解析できるようになったことから、今後は高速度版を用いて、詳細な検討を進めていきたいと思います。

参考文献

1)一般法人FLIPコンソーシアム「カクテルグラスモデル要素 簡易パラメータ設定法(第1版)報告書」2023
 2)井上和真:水平方向地震動の軌跡特性が構造物の2方向弾性応答に及ぼす影響,地震工学会論文集第36巻,pp.122-134,2017
(T)

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