CREATEC TECHNICAL BLOG クレアテック技術ブログ

戻る

Vol.30 ペンツェン型モデルによる解析

Civil Tips 2022.10.28

【はじめに】
 骨組みモデルを用いた構造物の動的解析において、地盤と構造物の動的相互作用を考慮しない場合、杭に地盤ばねを設定し地震波を直接入力する単一入力法(図-1)が用いられることがあります。
 一方、動的相互作用を考慮する方法として、自由地盤と杭-構造物系を別々にモデル化し、自由地盤系の応答解析結果を杭-地盤系に入力するペンツェンモデル(図-2)があります。
 ここではmidasCivilによって自由地盤系と構造物系を一体化した簡便なペンツェン型モデル(図-3)を作成し、動的解析を行い、単一入力モデルの結果と比較したので紹介します。

図-1 単一入力法


図-2 ペンツェンモデル


図-3 ペンツェン型モデル


【ペンツェン型モデル】
杭-構造系モデル
・対象構造物は図-4に示す杭2本で支持された単柱橋脚とします。
・橋脚躯体は線形梁要素とし、断面は1.0m×1.0m、高さ5.0mとします。
・柱上端に100tonの質量を付加します。
・杭基礎はフーチングを剛体とし、直径1.0mの杭を2本、長さを21.0mとします。

自由地盤系モデル
・地層は図-4に示す通りとします。
・地盤パラメータを表-1に示します。
・自由地盤の節点質量は構造系の影響を無視できるように支配面積Aを10,000m2として計算しました。
・深度方向分割は1.0mとしました。
・節点はせん断ばねによって連結し、せん断ばねの初期剛性はK0=G0A/L (kN/m)により設定します。
 ここで地盤の初期せん断弾性係数G0 (kN/m2)=ρVs02とします。
 Lは分割長となるためここでは1.0m(地表面および下端のみ0.5m)となります。
・また、せん断ばねの非線形特性はRO(RambergOsgood)モデルとし、限界変位δrには基準ひずみγr×L、最大減衰はhmaxを入力します。
 基準ひずみおよび最大減衰は土研式1)のひずみ依存特性にフィッティングしたものとします。
・下端には粘性境界として線形ダッシュポットを設定します。
 減衰係数はC=AρVs (kN・s/m)とします。

地盤-構造相互作用ばね
・自由地盤と杭を繋ぐ水平相互作用ばねは鉄道標準2)より地盤反力係数および有効抵抗土圧を算出し、ばね定数と上限値を設定します。
 相互作用ばねの履歴特性はClough型とします。
・杭の周面鉛直ばねと先端ばねも鉄道標準より算出します。

入力地震波
・作用荷重は地震波のみとし、基盤波形を入力します。
 ここでは鉄道標準3)よりG1地盤のL2スペクトルⅡとします。(図-5)

【単一入力モデル】
・杭および躯体はペンツェン型モデルと同一とし、杭には鉄道標準2)より算出したClough型履歴特性を有する水平方向ばねおよび鉛直ばねを設定しました。
・入力地震波は地盤種別よりG4地盤のL2スペクトルⅡとしました。(図-5)

図-4 解析モデル(ペンツェン型)


図-5 入力地震波


表-1 地盤パラメータ


【解析結果】
 図-6に固有値解析結果の1次~3次モードを示します。1次モードは両モデルともほぼ同一のモード形状、固有周期となりますが、2次モード以降は単一入力モデルでは躯体のモード、ペンツェン型モデルでは地盤連成モードとなっています。

図-6 固有値解析結果


 図-7に橋脚天端の時刻歴応答変位の比較グラフを、図-8に最大応答変位となる時の変形図を示します。それぞれ入力地震波が異なるので単一入力モデルではG4地震波の15.21秒で最大(34.9cm)となり、ペンツェン型モデルではG1地震波の13.30秒で最大(38.7cm)となりました。入力地震動の違いにより正負は逆転していますが、構造系の変形形状はほぼ似たような形となりました。

図-7 橋脚天端の時刻歴応答変位の比較


図-8 橋脚天端最大応答変位時変形図(変形量×5)


 解析の結果得られたペンツェン型モデルと単一入力モデルにおける杭の変位、モーメント、せん断力の最大応答値の分布を図-9に示します。ペンツェン型モデルの杭の最大応答変位は単一入力モデルよりも大きく、自由地盤系に追随する形で変位しています。一方、両者の曲げモーメントは地中部において差異が見られるものの、杭頭においてはほぼ近い値となっています。また、せん断力の分布はペンツェン型モデルでは自由地盤の変位が急増する-12.0m付近において1000kNを超える最大せん断力が発生していますが単一入力ではこのような急変は見られません。

図-9 自由地盤の有無による変位と断面力の比較


【最後に】
 上記のようにペンツェン型モデルでは、地盤条件が杭の挙動に及ぼす影響を考慮することができます。また、単一入力モデルでは地表面波を入力するため、地盤種別ごとに入力地震波を設定する必要がありますが、ペンツェン型モデルでは基盤波を入力するため、地盤条件の異なる複数の構造物の解析を一括して行うことが可能となります。

 

FEMで3次元的な地層変化をモデル化するには技術力と時間が必要ですが、ペンツェンモデルであればこれを自由地盤系のモデルにより簡略化することができるため、容易に解析することができます。
 このようにmidasCivilでも、ここで紹介した手法によって動的相互作用を考慮した解析が可能です。ただしmidasCivilに搭載されている地盤非線形特性はRO(RambergOsgood)と HD(HardinDrnevich)のみとなりますので注意が必要です。

 

参考文献
1)建設省土木研究所:地盤の地震時応答特性の数値解析法,土木研究所資料第1778号,1982.2
2)鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物・抗土圧構造物,丸善(株),2000.
3)鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震標準,丸善(株),1999.

構造物・地盤解析サービス

建設関連調査・分析