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RC梁のせん断破壊再現解析その2

DIANA Tips 2022.07.29

 前回のコラム(RC梁のせん断破壊再現解析)ではRC梁のせん断破壊再現解析を行い,RC梁のせん断挙動が比較的精度良く再現できることを確認しました.
 本コラムでは,前回のコラムで用いた解析モデルにおけるせん断伝達モデルを変更し,結果への影響を検討しました.

1.せん断伝達モデル
 前回のコラムで用いたせん断剛性低下率一定としたせん断伝達モデルでは、ひび割れ面でのせん断剛性を次のように定義していました.



 ここで,前回のコラムではせん断剛性低下率β=0.04で一定としましたが,本コラムではコンクリート標準示方書にて規定されているせん断伝達モデル(前川接触密度モデル)を用いました.図1に前川接触密度モデルを示します.図1中のβと式(1)中のβは別物ですが,以後βと呼ぶものは全てせん断剛性低下率を指すものとします.

図1 前川による接触密度関数モデル
(2017年制定コンクリート標準示方書)

 せん断剛性低下率一定としたモデルとは異なり,前川接触密度モデルにおいてはひび割れ面でのせん断剛性はひび割れの進行に従い低下していきますが,入力パラメータの一つとしてβの下限値の設定が必要となり,本検討ではこの下限値を0.04として解析を行い,β=0.04で一定とした解析結果と比較しました.

2. 解析結果
 図2にβ=0.04で一定の解析結果と,前川接触密度モデルでβの下限値=0.04の解析結果を示します.両者を比較すると,前川接触密度モデルの結果の方が全体的に荷重が大きくなっており,最大荷重が実験値では変位およそ1cmで245kNに対し前川接触密度モデルでは変位0.88cmで247kNとなっており,やや実験値より大きいですが再現性が向上していることがわかります.これは,ひび割れの初期段階においてはβが0.04より大きい値であり,β=0.04で一定では表現できなかったからだと考えられます.

図2 荷重-変位曲線
(せん断伝達係数一定と前川接触密度モデルの比較)

 βの下限値が0.04では若干最大荷重が大きかったので,βの下限値を0.035にした結果を図3に示します.0.92cmで最大荷重244kNとなり,実験と比べるとピークを早期に迎えていますが,実験値のピーク荷重245kNにかなり近い値となっていることがわかります.若干実験値と比較してピークまでの結果が固くなる原因としては,変位の連続条件から生じるストレスロッキングによる影響などが考えられます.

図3 荷重-変位曲線

3.まとめ
 固定ひび割れモデルを選択した際の入力パラメータの一つであるせん断剛性低下率について、解析結果へ与える影響を確認しました。せん断剛性低下率は特に決められた値が存在しない(DIANAでは0~1の範囲で入力、既往の研究1),2)によると0.01~0.2)ため、設定には注意が必要です。

参考文献
1)山谷敦,中村光,檜貝勇:回転ひび割れモデルによるRC梁のせん断挙動解析,土木学会論文集 No.620/V-43,187-199,1999.5
2)中越亮太,幸左賢二,白戸真大,足立幸郎:せん断スパン比が押抜きせん断耐力に及ぼす影響の検討,コンクリート工学年次論文集 Vol.25,No.2,2003
3)2017年制定 コンクリート標準示方書:土木学会

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