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RC梁のせん断破壊再現解析

DIANA Tips 2022.05.31

1.はじめに
 せん断破壊は曲げ破壊と異なり急激に耐力を失う破壊形態であり,鉄筋コンクリート部材の設計としては望ましくありません。さらに,せん断破壊は破壊に至る耐荷機構が多くの要因に影響され,コンクリートのひび割れモデルの知見が積み重ねられた現在においても解析的な評価は容易ではありません。今回はせん断破壊を想定した図-1に示すRC梁を対象として,山梨大学で実施された実験1)再現解析結果について報告します。

2.実験概要
 供試体の寸法を図-1に,使用したコンクリートおよび鉄筋の材料諸元を表-1に示します。スパン長2a=200cm,有効高さd=26cm,せん断スパン比a/d=3.85の斜め引張破壊を想定した形状です。引張鉄筋比は3.71%(3D29),帯鉄筋比は0.24%(2D6,13cmピッチ)のスターラップを配置しています。荷重載荷方法はスパン中央部への単調集中載荷とし,応力集中を緩和するため,荷重載荷点および支点には幅8cmの支圧板を配置しています。

図-1 対象構造物の概要

表-1 材料定数

 図-2に荷重-変位関係を示します。変位がおよそ1cmとなった時点で斜めひび割れの一つが載荷点に向かって進展し,最大荷重245kNに達しました。図-3の実験終了時のひび割れ図に示すように,斜めひび割れは梁全体に分散する傾向で,最終的には載荷点近傍のコンクリートの圧壊を伴って破壊に至っています。

図-2 荷重-変位関係(実験結果)

図-3 実験終了時のひび割れ状況

3.解析概要
 図-4に解析モデルを示します。分散ひび割れ,「埋め込み鉄筋」を使用した離散鉄筋モデルで,ソフトウェアはDIANA10.5(開発:DIANA FEA社)を使用しました。なお,回転ひび割れモデルでは,圧縮ひずみの局所化により,せん断補強筋の効果を充分に表現できない問題が指摘されていることから,今回の解析は固定ひび割れモデルを採用しました。

図-4 解析モデル

1)材料構成則
 材料物性の基本値は表-1と同一とし,コンクリートの引張軟化特性はコンクリート標準示方書準拠の二直線タイプ,圧縮特性はコンクリート標準示方書準拠型,横方向ひび割れによる圧縮強度低減もコンクリート標準示方書準拠型としました。せん断伝達モデルは低下率β=0.04で一定としました。また,鉄筋については降伏基準をVonMisesで硬化則無しとしました。なお,載荷点,支点の支圧板は,ヤング率を鋼材の10倍の線形材料としました。

2)境界条件,荷重条件および収束法
 荷重載荷点となる支間中央で鉛直ローラーによる対称条件を与えた1/2モデルとしました。また実験と同じように応力集中が生じないように載荷点,支持点に支持板を配置しました。荷重は変位制御とし,1ステップ当たり0.1㎜を-Z方向に15㎜まで漸増載荷しました。なお,イタレーションはNewton-Raphson法を使用し,収束判定はエネルギーノルム比0.001で制御しました。

4.計算結果
1)要素サイズ40㎜の8節点ソリッド(1次)要素
 まず,図-4の解析モデルに対し,図-5のようにアイソパラメトリック1次要素で分割したモデルでの計算結果を示します。図-6に示すように,初期の荷重レベルで載荷点直下の下縁要素に変形が集中し,収束解が得られない結果となりました。

図-5 要素分割(要素サイズ40㎜,1次要素モデル)

図-6 0.4㎜時の変形図(要素サイズ40㎜,1次要素モデル)

2)要素サイズ20㎜の8節点ソリッド(1次要素)
 次に,図-5のメッシュに対し,各辺を2つに細分割したモデルでの計算結果を示します。なお,こちらもアイソパラメトリック1次要素を使用しています。前述1)と同様,荷重レベルで載荷点直下の下縁要素に変形が集中し,収束解が得られない結果となりました。

図-7 要素分割(要素サイズ20㎜,1次要素モデル)

図-8 0.3㎜時の変形図(要素サイズ20㎜,1次要素モデル)

3)要素サイズ40㎜の20節点ソリッド(2次要素)
 次に,図-5の要素サイズでアイソパラメトリック2次要素(中央節点追加)を使用したモデルの計算結果を示します。図-9に要素分割を,図-10に荷重-変位関係を示します。8.6cmで最大荷重240kNとなり,実験と比してピーク荷重時の変位がやや小さいものの,0.5cmまでは非常に高精度で再現できていることがわかります。

図-9 要素分割(要素サイズ40㎜,2次要素モデル)

図-10 荷重-変位関係

 図-11にピーク荷重時での最小主ひずみコンターを示します。上縁側で圧縮ひずみの卓越の開始が確認できます。

図-11 最小主ひずみコンター(変位8.6㎜時)

 図-12にピーク荷重時でのひび割れひずみコンターを示します。載荷点と支点を結ぶラインの下方の領域全体でひび割れが発生していることが確認できます。

図-12 ひび割れひずみコンター(変位8.6mm時)

 図-13にピーク荷重時での鉄筋要素のVonMises応力コンターを示します。斜めひび割れに沿って帯鉄筋の引張降伏が確認できます。

図-13 VonMises応力コンター(変位8.6㎜時)

5.まとめ
 ひずみ軟化を考慮するコンクリートにアイソパラメトリック2次要素を使用することでせん断破壊挙動を比較的精度良く再現できることがわかりました。

参考文献
1)山谷敦,中村光,檜貝勇:回転ひび割れモデルによるRC梁のせん断挙動解析,土木学会論文集,No.620/V-43,187-199,1999.5

(縞)

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