Vol.13 面分布ばねの落とし穴
Civil Tips 2014.07.14
境界条件の設定に「面分布ばね支持」というのがあります。これは杭基礎や地下構造物に接する地盤を境界条件として設定するのに、要素長さや面積を自動で計算して地盤反力係数から節点ばねを一括して設定してくれるという優れものです。しかも線形ばねだけでなく、圧縮専用、引張専用ばねも与えることができるので大変便利です。
たとえば杭基礎に線形の地盤ばねをつける場合、杭の梁要素(任意の長さで要素分割して構わない)を選択し、メインメニューの「モデル>境界条件>面分布ばね支持」で表示されるダイアログ(右図)で幅に杭径を入力し、ばねタイプは1次(線形)を選択し、XYZ方向ぞれぞれの地盤反力係数を入力してやれば分割した要素の長さと杭径に応じたばねを各節点に設定してくれます。
ばねタイプが1次(線形)の場合には、設定する方向は全体座標系XYZ方向にしておけばまったく問題ないのですが、圧縮、引張のみのばねを設定する場合には注意が必要です。
設定する方向には右図のように種類があって、ちょっと見ただけではどれが適切なのかわかりません。
また、1次(線形)ばねの場合は、XYZ方向のばねを一括して設定できますが、圧縮(引張)のみの場合は、必要に応じて各方向を個別に設定しなくてなりません。(設定していない方向の自由度が拘束されていないとWARNINGが出る可能性があります)
さて、設定のルールはどうなっているかというと、垂直(+)、垂直(-)の場合は、ばねを設定したい要素の要素座標系の法線方向のプラス側にばねをもってくるかマイナス側にばねをもってくるかの違いになります。たとえば右図のような梁要素の場合、要素座標軸z方向が法線方向となりますので、垂直(+)とした場合には、そのプラス側にばねがつく形となります。(実際には節点にばねが付きます)UCS座標系の場合は、そのモデルの座標系に対して同様の考え方でばねの向きが決まります。これを間違えて逆方向につけると、ばねがまったく効きません。
さて、梁要素のうち一要素だけ法線方向が他と異なっていたり、要素が角度を持って連結されている場合に一括して設定すると少しややこしいことになります。この場合、下図に示すように、ばね値は隣り合うそれぞれの要素から決まるばねの合計値(和)となり、方向はそれらの中心位置に来るよう設定されます。
したがって、ばねの方向が意図する方向と異なっていたり、左右のばね値が大きく異なっていると誤差が大きくなる可能性があるので注意が必要です。このような場合には要素ごとに設定するか全体座標系に従って設定しましょう。
さて、杭基礎をイメージしてこれを梁要素と板要素でモデル化し、地盤抵抗を面分布ばねで設定してみます。杭の断面はφ500mm、t=16mmで長さは11mとしました。まずは要素の違いによる影響を見るために地盤がない状態で下端を固定し、片持ち梁形式で杭頭に100kNの水平荷重をかけて結果を比較してみました。
変位の解析結果は以下の通りです。左が梁要素、右が板要素モデルの結果ですが、板要素モデルでは断面自体が変形してしまうので、杭頭変位に若干の誤差が生じています。なお、板要素モデルの結果は表示が煩雑になるため一部の節点のみで表示しています。
次に下端から10mまでが地盤に埋まっていると考えてこの範囲に地盤ばねを設定します。梁要素モデルについては地盤抵抗を受ける幅を板要素モデルと同等とするために484mmとします。また、変形する方向に応じて(正負両側で)地盤反力を受けるのでばねタイプは1次(線形)とし、全体座標系X方向に対して地盤反力係数は20000kN/m3と仮定しました。
板要素については右図のように要素座標系法線方向がすべて外側を向いており、それぞれの要素が外側の地盤から直接反力を受けるため、地盤ばねは面に垂直な圧縮専用要素として法線方向+側につけます。したがってばねタイプは圧縮専用、方向は垂直(+)となります。
解析の結果、変位は以下の通りとなりました。なお、ここでは杭先端Y軸周りの拘束を解除しています。本ケースの場合も杭頭変位に若干の誤差が認められますが、これは梁要素モデルの場合は要素長さに応じた水平方向のばねが一様に設定されるのに対して、板要素モデルの場合は杭体の円周方向に地盤ばねが設定されるため、杭体(断面)の変形によって地盤抵抗が深さ方向、円周方向で複雑に変化するためだと思われます。どちらでモデル化するかは解析の目的に応じて選択する必要があります。
このように面分布ばねは、非常に便利な機能ではありますが、設定の仕方に注意しないと思わぬ落とし穴があるのでご注意を。。。