能登半島地震動を入力したMSSモデルの計算
解析全般 2024.01.291.はじめに 2025年元日に発生した能登半島北部を震源とする最大震度7の地震は地すべり,津波,道路亀裂,港湾隆起,ライフライン遮断,液状化等の甚大な被害をもたらし,特に下記写真のような家屋倒壊は石川県内で4万棟以上とされ,その下敷きとなった死傷者も数多く報告されています.先月開催された能登半島地震の速報会1)において,兵庫県南部地震の鷹取波相当の応答スペクトルが複数点で観測されたと説明がありましたが,十分な耐震性能を保有していない建物が特に“揺れ”の影響を強く受けたと考えられます.
地震観測波の水平動はNS/EW成分で記録され,どちらか1成分のみで任意の構造物に対する影響を評価することは困難であるため,今回は特定の方位特性を有さないMultiple Shear Springモデル(図-1参照,以降MSSと略記)にK-NET穴水の強震記録による水平動2方向同時入力から得られた結果を報告します.
2.強震記録 K-NET穴水での強震記録を図-2,3に示します.また,比較として兵庫県南部地震のJR鷹取駅での強震記録を図-4,5に示します.主要動の継続時間は鷹取駅の方が短く,PGAはK=NET穴水の強震記録の方が大きいことがわかります.
両者の加速度応答スペクトルを図-6に示します.K-NET穴水はピークスペクトルの周期帯が広く,構造物への影響が大きいとされる0.5秒~1.0秒の周期帯で概ね鷹取駅のスペクトルを2割程度上回っていることがわかります.
3.解析概要 固有周期0.5秒,降伏震度0.5Gを対象として水平2自由度を有する1質点系バネマスモデルを想定しました.さらに質量を1tonとした場合に固有周期,降伏震度から算出されるK,Qyを図-7のようなせん断力―せん断変位関係として考慮しました.
MSSは方位特性を持たないモデルで下記で定式化されます.4)
本解析では8本のせん断バネを22.5°間隔で配置します.この場合,∑cos2θk=4.00,∑|cosθk|=5.03となります. 時刻歴応答解析では積分時間間隔を0.002秒とし,2.0Hzでh=5%の剛性比例型減衰(β=0.00796)を考慮しました.NS成分,EW成分の地震動をそれぞれX軸方向,Y軸方向に入力しました.なお,計算ソフトはSoilPlusを使用しました.
4.計算結果 まず,MSSモデルを構成する8個の各せん断バネの時刻歴変位を示します.図-8,図-9がそれぞれK-NET穴水入力ケース,JR鷹取駅入力ケースとなります.図-8では45°方向バネは最大変位も小さく残留変位も生じませんが,その法線の135°方向バネは最大変位が大きく残留変位も約14cm発生します.一方,図-9では0°方向バネは最大変位も小さく残留変位も生じませんが,その法線の90°方向バネは最大変位が大きく残留変位も約15cm発生します.
次に塑性率オービットを図-8に示します.
鷹取駅は北北西の方角に塑性率が卓越し,最大7.8,K-NET穴水は南東の方角に塑性率が卓越し,最大9.1となり,鷹取駅を上回る結果となりました.建物の剛性の異方性,周辺の道路状況等で一概には言えませんが,建物が倒壊に至る可能性が充分に高い入力レベルであることが確認できます.
参考文献