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有効応力解析コード比較

解析全般 2023.10.30

1.はじめに
 現在,地盤全応力モデルでの非線形動的解析が可能なソフトウェアは比較的多く市販されていますが,非排水条件下でのダイレイタンシーによる有効応力の減少を扱うことができ,さらに地盤・構造物連成問題に対応できるソフトウェアは限定されます.さらに,有効応力解析の各種コード間の比較事例は少ないことから,当社で有効応力解析として実績のあるFLIPとSoilPlusでの計算を実行し比較した結果を報告します.

2.計算条件
 計算対象は図-1に示す土柱地盤とし,地表面から2mまで不飽和層でその下に液状化を想定した砂層S1,S2を有し,-25mから2E入力するモデルとします.

図-1 計算モデル(2次元土柱)

 

 FLIPはマルチスプリング要素を使用しました.FLIPの全応力非線形は双曲線モデルがベースのため1),SoilPlusには従来の「修正R-O+Bowlモデル」ではなく,「修正GHE+Bowlモデル」を使用しました.なお,修正GHEは通常のMasing則ではなく,hmax,κを定義することで任意のh~γ関係を満足できる構成則です2).FLIP,SoilPlusに使用した標準パラメータを表-1,表-2に示します.C1(0),C1(∞),C2(0),C2(∞),α,βは代表的な双曲線則であるH-Dモデルと同等となるように全て1.0としました.また,FLIPはC,Φでせん断強度を考慮しますがSoilPlusでは,このような強度定数は設定しないため,各層のせん断強度が同等となるようにγrf/G0で基準ひずみを算出しました.

表-1 FLIPに使用した標準パラメータ

表-2 SoilPlusに使用した標準パラメータ
(深度,Vs,ρは表-1と共通のため略記します)

 次に使用した液状化パラメータを表-3および表-4に示します.

表-3 FLIPに使用した液状化パラメータ

表-4 SoilPlusに使用した液状化パラメータ

 S1層,S2層それぞれで液状化強度試験値にフィッティングした要素シミュレーション結果を図-2,図-3に示します.

図-2 S1層の液状化パラメータフィッティング結果

 

図-3 S2層の液状化パラメータフィッティング結果

 

 レベル2地震動の海溝型ならびに内陸直下型として道路橋示方書のⅠ-Ⅰ-1波形,Ⅱ-Ⅰ-1波形を基盤入力波としました.図-4に2種類の入力地震動の加速度波形と加速度応答スペクトルを示します.本モデルの地盤の固有周期は0.44秒ですので,弾性加速度応答スペクトルはⅡ-Ⅰ-1の方が大きいことがわかります.

図-4 入力地震動3)

 

 ダイレイタンシー関する構成則の差のみの影響を評価するため,計算条件は2コードいずれも以下で統一しました.

 

3.計算結果
 Ⅰ-Ⅰ-1波入力,Ⅱ-Ⅰ-1波入力ぞれぞれの最大応答分布を図-5,図-6に示します.弾性加速度応答スペクトルの結果と異なり,Ⅰ-Ⅰ-1波入力の応答が大きいことがわかります.過剰間隙水圧比は全て95%に到達しています.コード間の差としては液状化層の加速度,S1層のせん断ひずみいずれもFLIPが大きいことがわかります.

図-5 Ⅰ-Ⅰ-1波入力による最大値深度分布

 

図-6 Ⅱ-Ⅰ-1波入力による最大値深度分布

 

 次に図-7~図-10にⅠ-Ⅰ-1波入力での時刻歴グラフを示します.FLIPではS2層のサイクリックモビリティが顕著で,その影響で過剰間隙水圧の上昇中の低下,主要動以外の最大加速度が発生していると考えられます.

図-7 Ⅰ-Ⅰ-1波によるS1層のせん断応力-せん断ひずみ関係と応力経路

 

図-8 Ⅰ-Ⅰ-1波によるS2層のせん断応力-せん断ひずみ関係と応力経路

 

図9 Ⅰ-Ⅰ-1波によるS1層,S2層の過剰間隙水圧比

 

図10 Ⅰ-Ⅰ-1波による地表面加速度,地表面変位

 

 図-11~図-12にⅡ-Ⅰ-1波入力での時刻歴グラフを示します.前述のⅠ-Ⅰ-1波入力と同じ傾向で,FLIPではS2層のサイクリックモビリティが顕著で,その影響で過剰間隙水圧の上昇中の低下,主要動以外での加速度の最大応答が発生していると考えられます.

図-11 Ⅱ-Ⅰ-1波によるS1層のせん断応力-せん断ひずみ関係と応力経路

 

図-12 Ⅱ-Ⅰ-1波によるS2層のせん断応力-せん断ひずみ関係と応力経路

 

図13 Ⅱ-Ⅰ-1波によるS1層,S2層の過剰間隙水圧比

 

図14 Ⅱ-Ⅰ-1波による地表面加速度,地表面変位

 

4.まとめ
 今回の土柱モデルに対するコード比較で以下の知見が得られました.
  ■2コードの結果がほぼ同等な点
  ・タイプⅠ地震動,タイプⅡ地震動いずれも液状化層であるS1,S2層の過剰間隙水圧比は95%を越える
  ・タイプⅡ地震動よりタイプⅠ地震動の方が変形が大きい
  ・タイプⅠ地震動,タイプⅡ地震動いずれも全応力層の応答はほぼ一致
・地盤全体のせん断強度が2コード間で差異がないため,Ⅰ-Ⅰ-1波入力ケースの地表面の最大加速度はほぼ一致
  ■2コード間での差異が生じた点
  ・S1層のひずみはFLIPが大きい
  ・サイクリックモビリティはFLIPが大きく,その影響で加速度もFLIPの方が大きい
  ・最終的な過剰間隙水圧比は2コードでほぼ同じだが,上昇過程はかなり異なる.

 

 次回は水平2方向入力による3次元土柱モデルで検討を実施したいと思います.

 参考文献
1)森田年一,井合進ら:液状化による構造物被害予測FLIPにおいて必要な各種パラメタの簡易設定法,港湾技研資料,№869,pp.4-5,1997
2)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計,pp.256-261,2012
3)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅴ耐震設計編,pp.76-80,2017
(縞)

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