鉄筋の付着すべりを考慮したRC梁のひび割れ解析
DIANA Tips 2022.02.011.はじめに
今回はRC梁のひび割れ解析を紹介します。対象構造物の配筋は下図に示す通りで,解析モデルには『付着すべり埋め込み鉄筋要素』を使用し,鉄筋・コンクリート間の付着すべりの影響について報告します。
2.解析概要
図―2に解析モデルを表―1に解析に使用した材料定数を示します。1/2対称モデルとし,計算にはDIANA10.5(開発:DIANA FEA社)を使用しました。計算は「埋め込み鉄筋要素」を使用した『完全付着』と「付着すべり埋め込み鉄筋要素」を使用した『付着すべり』の2ケースで実施しました。
1)材料構成則
梁部のコンクリートは全ひずみ回転ひび割れモデルを使用し,引張軟化特性はHordijkモデル,圧縮特性はコンクリート標準示方書準拠モデル,横拘束低減はSelby&Vecchioモデルとしました。また,鉄筋については降伏基準をVonMises,付着すべりは図-3に示す島のモデルを用いました。スタブについては,内部1200㎜の区間は梁断面の非線形範囲を延長し,それ以外は線形材料としました。
2)境界条件および荷重条件
境界条件および荷重条件は-X端部を完全拘束とし,梁部に軸力が作用しないようZ軸方向に変位荷重を与えました。荷重は図-4に示す部材角±1/200,±1/100,±1/50,±1/25の漸増正負交番載荷としました。
3.計算結果
1)荷重変位関係
荷重変位関係を図-5に示します。付着すべりを考慮した場合と完全付着の場合について,部材角-40×10-3からの除荷区間の-10×10-3(2900ステップ付近)で若干の差は確認できますが,概ね両者に有意差はありません。
2)鉄筋のひずみ
鉄筋ひずみ分布について,完全付着ケースを図-6に,付着すべりを考慮したケースを図-7に示します。SD345の降伏ひずみは1725μで,部材角6×10-3(260step)を越えると,スタブとの境界部の鉄筋ひずみが急増することがわかります。また,この荷重レベルでは,完全付着ケースと付着すべりを考慮したケースで鉄筋ひずみに有意差が無いことがわかります。
次に,X=-2500mm位置のスタブ内要素の鉄筋ひずみ履歴を図-8に示します。300ステップまで完全付着ケースと付着すべりを考慮したケースで,鉄筋ひずみに差はありませんが,それ以降,圧縮側のひずみが卓越するステップで完全付着ケースと比して付着すべりケースの方が大きな鉄筋ひずみが確認できます。ただし,引張側が卓越するステップでは2ケース間にほとんど差はありません。
3)コンクリートのひび割れひずみ
鉄筋降伏直後のひび割れひずみコンターを図-9および図-10に示します。付着すべりケースの方が完全付着ケースと比して引張縁の局所的なひずみが卓越していることがわかります。
さらに,数度の漸増繰り返し荷重を経て,部材角40×10-3から除荷中の2900ステップにおけるひび割れひずみコンターを図-11および図-12に示します。梁端部において上下縁ともに10%以上のひずみが発生しているものの,「完全付着」と「付着すべり」の2ケースの間に有意差は無いことがわかります。
4)付着応力
全ステップ中,発生した付着応力の最大値を絶対値でプロットした分布図を図-13および図-14に示します。梁とスタブの境界部で,前述の図-3で示したピーク値に到達していることがわかります。一方で梁中間部では,付着応力はほとんど発生していません。
鉄筋降伏前後のステップでの付着応力の分布図を示します。図-13と同様,スタブ内でピーク値が発生し,さらに,同ステップでは,上側鉄筋と下側鉄筋に発生する付着応力が点対称関係にあることがわかります。また,鉄筋降伏の荷重レベルでは付着応力の上限値に到達しませんでした。
4.まとめ
最大部材角1/25までの漸増繰り返し載荷に対するRC梁のひび割れ解析を実施したところ,鉄筋・コンクリート間の付着すべりの影響はほとんど無視できることがわかりました。