Vol.26「1辺固定・2対辺単純支持版」の計算
Civil Tips 2021.04.01池状構造物の側壁は,底版と剛性の低い妻壁や隔壁で拘束される部材であるが、一般的な構造力学公式集に「1辺固定・2対辺単純支持版」は紹介されていない。そのため、設計の実務では、方向毎に梁の公式を使用したり、あるいは「3辺固定・1辺自由版」公式で対処することがある。そこで、本レポートでは「1辺固定・2対辺単純支持版」モデル(以下、単純支持モデル)と「3辺固定・1辺自由版」モデル(以下、固定モデル)の断面力および変形の比較を行うことで、「3辺固定・1辺自由版」公式の適用性について考察する。
まず、FEMによる固定モデルの解析結果と図3に示す鋼構造設計便覧の等分布荷重載荷時3辺固定1辺自由版の算定図より算出した結果を比較し、解析結果と「3辺固定・1辺自由版」公式の妥当性の確認を行う。比較項目は、1:曲げモーメント、2:せん断力、3:たわみとする。以下に結果を示す。
表1より、FEM解析結果と公式による計算値の誤差は、曲げモーメントは6%以下、せん断力は18%以下、たわみは24%となり、概ね妥当性は確認できた。
なお、各数値の誤差はポアソン比の違い(FEMの固定モデル:0.167、公式:0)と、厚板理論(固定モデル)・薄板理論(公式)、メッシュサイズによる違いと考えられる。
次に、固定モデルと図2に示す単純支持モデルの比較を行う。単純支持モデルの妻壁を0.3mとし、加えて1m・2m・5mも参考として解析を行う。図4~図13に固定モデルと0.3mモデルのコンター図を、図14~図19に各モデルの断面力とたわみの比較図を、表2に結果まとめを示す。
・曲げモーメント
水平方向では、固定モデルに対して0.3mモデルの端部(隅角部)は、妻壁による拘束効果(回転)が小さく、端部(隅角部)での単純支持に近い境界条件となり、曲げモーメントが大幅に小さくなった。 鉛直方向では、固定モデルに対して0.3mモデルは、妻壁による拘束効果(並進および回転)が小さく、片持ち梁に近いものとなり、中央部下端で大幅に大きくなった。
水平方向中央部の曲げモーメントは固定ならびに妻壁0.3m~5.0mでほとんど差が生じなかった。
これは、側壁の高さと幅の比に起因しており、端部の固定度による影響が小さくなるためである。幅の比率が大きいほど中央部の曲げモーメントの差は生じないと考えられる。
・せん断力
水平方向、鉛直方向ともに固定モデルに対して0.3mモデルは、約2,3割大きくなった。
・たわみ
妻壁が薄くなるにしたがって、端部(隅角部)での回転拘束が小さく、たわみが大きくなり、固定モデルに対して0.3mモデルは約2倍の値となった。
図14~図19より固定モデルの結果に近似するのは側壁厚さ1mに対して5mであり、2mを超えると固定モデルの8割程度の値となる。隅角部を固定端としてモデル化するのに妥当な妻壁厚さは側壁厚さ1mに対して2m以上の壁厚が必要である。
したがって、当たり計算や妥当性の確認として、「1辺固定・2対辺単純支持版」に対して「3辺固定・1辺自由版」公式を適用することは注意が必要である。
《参考文献》
1)鋼構造設計便覧(H30 JFEスチール株式会社)