静止土圧
技術屋のひとり言 2019.11.05 土の圧力「土圧」は、地盤工学において最も頻繁に表れる用語の一つではないでしょうか。主働/受働/地震時土圧を始めとして、ゆるみ土圧、膨張性土圧、側方流動土圧、偏土圧、仮想背面土圧、鉛直土圧係数、抗土圧構造物、泥土圧/土圧バランス式シールドなど、さまざまなワードが浮かびます。
ところで筆者にとって今一つ、つかみどころのない土圧だったのが「静止土圧」でした。静止土圧係数K0の定式化に関する研究は、一例をあげると以下のようにこれまで数多く行われて来ました。
K0=(1−0.404tanφ’) / (1+tanφ’) φ’:内部摩擦角
K0=1−sinφ’ あるいは 1−sinφcv’ φcv’:内部摩擦角(体積一定の条件)
K0=0.19+0.233log Ip Ip:塑性指数
Ipとφ’には相関関係があると言われているので、上の式はいずれも土の強度パラメータがK0を規定していると考えてよいと思います。他方、弾性論では対照的に、土の変形パラメータであるポアソン比νを用いて下式が得られています。
K0=ν/(1−ν)
これら力学的意味の異なる2つのパラメータの存在が、当初のK0の「つかみどころのなさ」に繋がっていたのかもしれません。この点、静水圧はあらゆる方向に対してK0=1なので単純明快ですね。地震時における静止土圧係数の意義や理論値ともなると、イメージするのがさらに大変です。綿密な検討を行うためには、応答変位法や静的・動的FEM解析などを実施することになりそうです。
静止土圧は英語ではearth pressure at restとされています。極限・破壊時の土圧であるactive earth pressure(主働土圧)やpassive earth pressure(受働土圧)と異なり、静止土圧にはat restとあるように、何となく安らかで平穏な印象を受けます。一方、実務上はK0=0.5とすることが少なくありませんが、activeな気質を有する(?)あの主働土圧係数Kaよりも大きくなったり小さくなることがあり、at restとはいえ静止土圧は気まぐれな一面も持ち合わせているということでしょう。