神保町巡礼(其の三十五)神田古本まつり
コラム 2019.11.05神保町が一年で一番にぎわう「神田古本まつり」。記念すべき60回を迎えた今年は10月25日から11月4日まで開催され、例年どおり多くの本好きが集まりました。私がのぞいた最終日、靖国通りでの<青空古本市>は終了時刻が近づいてもまだ混雑が続き、ちょっとした朝のラッシュアワー状態でした。この古本市の規模はなんと100万冊。高価な希少本にあらゆる分野の専門書、文庫本、漫画、写真集、加えてポスター、CD、雑貨と、ないものがありません。休日ともなるとすずらん通りには地元店舗の美味しそうな屋台が軒を連ね、訪れる人の胃袋も満たしてくれます。
午後の遅い時間に繰り出し、ほんの少し冷やかして帰ろうと思っていたのですが、一軒覗くと隣も気になり、気がつけば500mほどの「本の回廊」を端から端まで歩いて日が暮れてしまいました。その間、この店で会った客にあの店でまた再会するといった風に、行く先々で見かけたことのある客たちと隣り合わせになります。妙な親近感を覚えつつも、お互いそ知らぬふりで立ち読みにふける、これもこの古本市の魅力のひとつかもしれません。
それにしても、いったいこれまでどれだけの本が出版され人々の手に渡り古本屋へとやって来たのでしょうか。100万冊の中から偶然手にした本に引かれたライン、書き込み、挟みっぱなしの古い栞をみて、ふとそんなことを考えました。本を書く人、読む人、作る人、それぞれの思いが神保町という街に集まり、再び多くの本好きに届く(それもほんとうに安価に)。この素晴らしい「神田古本まつり」、まだ未体験の方はぜひ来年どうぞ。(淑)