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神保町巡礼(其の三十)番外編二/喫茶 穂高

コラム 2019.01.09

 JR御茶ノ水駅の聖橋改札口を、橋とは反対の方へ出るとすぐに、古びた山小屋風の喫茶店「穂高」があります。一度は入って見たいと思いながら、なんとなく入りそびれていたお店です。

 正月休みに近くを通りかかった折、ふと思いついて寄ってみました。小さな店内の奥にある大きなガラス窓の席に座り、外の景色を楽しみました。ここからは御茶ノ水駅のホームと神田川を、東京医科歯科大学の壁画レリーフを背景にして見ることができます。ちょうど駅のバリアフリー整備工事のタワークレーンが手前をふさぐようにしていますが、土木屋にとってはこれも味のある風景です。BGMのない静かな店は、耳を澄ませば駅のアナウンスも発車のベルも聴き取れます。もしかしたら鉄道好きにも人気のお店かもしれません。

 喫茶穂高は1955年創業、現在のマスターは2代目だそうです。店名の由来は初代が名峰・穂高岳を好きだったからだとか。古い看板には「珈琲 穂高」と白い文字で書かれていますが、よく見ると横に書かれた「と山の音楽」が黒く塗りつぶしてあります。どんな経緯で消されたのか知りたいところです。 私の座った席の正面に、直筆でかかれた新田次郎の短歌が飾ってありました。彼もここの常連だったそうです。

― ほたかだけ 四季さまざまに 咲く花の
       ひとつにふりて 雪となりける ― 

 穂高の景色が浮かんでくるようですね。

 私も一時、同業の大先輩たちに誘われ山登り(低山です)を楽しんでいましたが、ここ数年すっかり遠ざかっていました。今年は久しぶりに山へ行ってみようと思います。穂高のおかげで思いがけない新年の決意をたててしまいました。みなさま、今年もよろしくお願いいたします。(淑)

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