DIANAによる頭付きスタッド押抜き試験の再現解析
DIANA Tips 2026.05.071. はじめに
頭付きスタッドは,鋼・コンクリート合成構造において両者の一体挙動を確保する重要なせん断接合要素であり,その力学特性は一般に押抜き試験に基づいて評価されている1),2),3).しかしながら,押抜き試験から得られる情報は主として荷重-ずれ変位関係に限られ,頭付きスタッドおよび周辺コンクリートの内部応力状態や荷重伝達機構を直接的に把握することは困難である.このため,こうした試験からは得られない内部の押抜き挙動を検討するためには有限要素解析が有効な手法の一つと考えられる4).
本稿では,RC構造の非線形解析に高い適用性を有するDIANAを用い,頭付きスタッド-コンクリート-H形鋼間の界面挙動を詳細にモデル化した解析を実施する.既往の押抜き試験を対象として再現性を検証するとともに,応力分布および損傷進展の可視化を行い,本手法の有効性および適用性について示す.
2. 対象とした頭付きスタッド押抜き試験の概要
本検討では,既往研究において実施された頭付きスタッドの押抜き試験を対象とする1).供試体の寸法および構成を図-1に,試験装置を図-2に示す.
試験体は,H鋼のフランジに頭付きスタッドを溶接し,その両側にコンクリートブロックを配置した押し抜き試験体である.頭付きスタッド径dは19mmで一定とし,スタッド長さのみをパラメータとして,TJ1(80 mm),TJ2(60 mm),TJ3(110 mm)の3ケースを対象とした.
試験用材料について,コンクリートの圧縮強度は55 MPa,頭付きスタッドの降伏強度および引張強度はそれぞれ403 MPaおよび493 MPaである.鋼材は200×200×8×12のH形鋼を用い,降伏強度は437.2 MPa,引張強度は540 MPaである.コンクリートブロック内には,SR295相当の丸鋼(HPB300)を用い,主筋としてΦ10鉄筋を縦方向に2列(計6本)配置されている.また,帯鉄筋にはΦ8鉄筋を用い,間隔110 mmで5列配置されている.
載荷は図-2に示す装置を用いて段階的に実施した.初期段階では荷重制御とし,一定のずれ変位到達後に変位制御へ移行した.試験は頭付きスタッドの破断まで行い,荷重とずれ変位の関係を取得した.
各供試体の荷重-ずれ変位関係を図-3に示す.荷重-ずれ変位曲線より,いずれの供試体においても挙動は弾性域と塑性域に大別される.荷重-ずれ変位曲線が降伏後,変位量の増加に伴い耐力は概ね一定値を維持する傾向を示す.また,本試験範囲においては,スタッド長さの違いが耐荷能力に与える影響は小さく,各ケースで類似した荷重-ずれ変位関係が確認された.
3. 供試体のモデル化
解析モデルは,供試体の対称性を考慮し,試験体の1/2領域を対象としてモデル化した.解析モデルの概要を図-4に示す.
モデルは,H形鋼(ソリッド要素),頭付きスタッド(ソリッド要素),界面ジョイント(圧縮専用インタフェース要素),鉄筋(埋め込み鉄筋要素)およびコンクリート部(ソリッド要素)により構成した.コンクリートブロック,H形鋼および頭付きスタッドの形状と寸法は試験体と同じようにモデル化した.
H形鋼および頭付きスタッドにはVon Mises弾塑性モデルを適用し,コンクリートには全ひずみひび割れモデルを適用した.コンクリート材料モデルについては,ひび割れや圧壊挙動を考慮したら解析の収束性が低下する可能性があるため,本解析では簡略化したモデルを採用した.すなわち,引張側は弾性として,圧縮側については圧縮強度に達した後は応力を一定とするモデルとした.
境界条件および荷重条件を図-5に示す.コンクリート下面は試験と同じにして完全拘束をした,H形鋼の対称面に対称拘束を入れた.載荷については,H形鋼上面に強制変位を与える方法とした.
本解析においては,スタッドとコンクリート間の相互作用を適切に評価するため,両者の界面にインタフェース要素を導入した.押抜き試験における荷重伝達は,スタッドと周囲コンクリートとの接触・付着・分離挙動に強く依存するため,これらの界面挙動を適切に考慮することが重要である.また,コンクリートと鋼材の間では,圧縮時には接触により力が伝達される一方,引張時には剥離が生じるため,界面要素によるモデル化が不可欠である.
インタフェース要素のモデル化詳細を図-6に示す.本解析では,界面の法線方向に対して非線形特性を有するモデルを採用した.すなわち,圧縮方向には剛性を有する一方,引張方向には抵抗を持たない(剛性をほぼ0とする)圧縮専用型のモデルとした.このようなモデルにより,頭付きスタッド周囲におけるコンクリートの接触および剥離挙動を適切に表現することが可能となる.法線方向に用いたインタフェース要素の構成モデルを図-7に示す.なお,圧縮方向の剛性については既往の検討に基づき設定しているが,本稿では詳細な数値については割愛する.
一方,せん断方向については,既往の平滑鋼板の引抜き試験結果を参考に,界面のせん断剛性を設定した.せん断方向の挙動については,弾性モデルを適用した.
以上のように,本解析では材料非線形性および界面非線形性を考慮することで,押抜き試験におけるスタッド接合部の力学挙動を再現可能な解析モデルを構築した.
4. DIANAによる再現解析結果
以上に構築した解析モデルを用いて,再現解析を実施した.解析に得られた荷重-ずれ変位曲線を図-8に示す.荷重-ずれ変位曲線の比較より,初期剛性および耐荷性能については,3ケースともに概ね試験結果と一致していることが確認された.
また,同図(a)に示すように,試験ではTJ2の荷重-ずれ変位曲線では,TJ1およびTJ3に比べて,載荷初期の段階から剛性低下が生じていることが確認された.一方,同図(b)に示す解析結果においても,コンクリートの損傷等を考慮していないため,剛性低下の開始時刻は試験より遅れるものの,同様の傾向が認められた.これらの挙動は本解析により概ね再現されている.
さらに,本解析により,試験では直接把握することが困難な内部応力状態についても評価が可能である.図-9および図-10に,各ケースにおけるずれ変位量0.2 mm(弾性域),1.0 mm(荷重-ずれ変位曲線降伏時),5.0 mm(荷重-ずれ変位曲線降伏後)時点における頭付きスタッドとH鋼フランジ部のVon-Mises応力コンターを示す.
いずれのケースにおいても,ずれ変位が約1.0 mmに達した段階で,頭付きスタッドとH形鋼の接合部において降伏が開始する様子が確認された.その後,変位の増加に伴い,スタッド中央部の上下面にも応力が集中し,順次降伏強度に達する挙動が認められる.また,スタッド長さが大きいほど,発生する応力レベルが大きくなる傾向が確認された.
載荷が進むと,ずれ変位が5.0 mmに達する段階では,溶接部付近における応力集中がより顕著となる一方,スタッド中央部上下面の応力は逆に低下し始め,応力集中領域がスタッドの側面方向へ移行する傾向が確認された.これは,頭付きスタッドとコンクリートとの上側界面に引張力による分離が生じ,これに伴う接触状態の変化によって,力の伝達経路も変化したものと考えられる.
一方,コンクリート内部の応力状態について,頭付きスタッド位置における断面のコンクリート最小主応力S3コンターを図-11に示す.コンクリートに生じる圧縮応力は,3ケースにおける圧縮応力の分布領域は概ね同程度であり,スタッド基部から約60 mmの範囲に集中していることが確認された.スタッド長さが最も長いTJ3においては,スタッド頭部直下位置(基部から約110mm)には圧縮応力はほとんど発生していない. TJ3に対して,TJ2(L=60 mm)では,スタッド長さが圧縮応力の集中領域とほぼ一致するため,スタッド頭部において顕著な回転変形が発生している.この結果,スタッド頭部上方のコンクリート内側および下方外側に圧縮応力が分布する特徴的な応力状態が確認された.TJ1においても類似の傾向が認められるが,スタッド長さが十分に長いTJ3ではこのような挙動はほとんど確認されなかった.
以上の結果より,本解析を通じて,スタッド接合部における応力伝達機構および損傷進展過程について,試験では得られない詳細な情報を把握することが可能となった.
5.まとめ
本検討では,頭付きスタッドの押抜き試験を対象として有限要素解析を実施し,荷重-ずれ変位関係の比較を通じて,解析モデルの再現性および有効性を確認した.また,応力コンターの可視化により,試験では直接把握することが困難な内部応力状態や損傷進展挙動についても評価可能であることを示した.
今後は,コンクリート強度や頭付きスタッド強度といった材料特性に加え,頭付きスタッドの配置条件や配列間隔の影響についても検討を行う予定である.さらに,頭付きスタッドと H形鋼の溶接部における応力状態およびその影響についても考慮し,接合部全体の力学挙動に関する理解の深化を図る.
また,本手法は頭付きスタッド接合部に限らず,類似の継手構造に対しても適用可能であり,継手の剛性,最大耐力および継手周辺の損傷挙動について詳細に評価することが可能である.
これらの検討を通じて,頭付きスタッド接合部の性能評価および設計検討への適用性について,より実務的な観点から知見を蓄積していく予定である.






