ディープビーム効果の再現解析
FEA Tips 2021.01.19今回はディープビーム効果の再現解析について紹介します。
1.ディープビーム効果
ディープビーム効果とは,下図のように,斜めせん断ひび割れが進展した後も載荷点と支点を結ぶコンクリートが圧縮力を負担しトラス的な耐荷機構が形成されることにより水平力に抵抗することができる状態をいう。
現行の道路橋示方書Ⅴ耐震設計編では,鉄筋コンクリート橋脚に対しては安全側の判断となるように,ディープビーム効果を考慮せず,せん断支間比に応じたコンクリートの負担するせん断力の割増しは行わないことが規定されている。
これは,鉄筋コンクリート橋脚の軸方向鉄筋が降伏し曲げ塑性変形が生じるような範囲の正負交番繰り返し載荷に対しては,コンクリートの負担するせん断力が大きく低下するためである。
一方で,既設橋の耐震性能照査では要対策となった場合の経済ならびに周辺環境への影響を最小限に抑えるため,合理的な耐力評価が求められている。壁式橋脚の橋軸直角方向のように十分な曲げ耐力を保有しているようなケースでは,せん断耐力の評価が補強設計のクリティカルとなる例が少なくなく,ディープビーム効果を考慮したせん断耐力算出が設計実務レベルでは広く用いられている。
具体的には『既設橋梁の耐震補強工法事例集H17海洋架橋・橋梁調査会』(以降,「海洋架橋事例集」と呼称)に記載されている手法で,道路橋示方書Ⅳ下部構造編のフーチングの照査式を鉄筋コンクリート橋脚へ適用させたものである。
2.解析方法
図-2,表-1~表-3のような3次元非線形モデルに強制変位荷重を与えることで,ディープビーム効果の再現解析を行う。なお,解析モデルのせん断支間比は5.2/7.0=0.74となる。
3.せん断耐力設計値の計算
海洋架橋事例集に記載されているディープビーム効果を考慮したせん断耐力の算出は,道路橋示方書Ⅳ下部構造編の「フーチングの照査」に準じた方法となる。具体的にはせん断支間比が2.5以下である場合,コンクリートの負担するせん断耐力に対し割増し係数を乗じ,せん断補強筋が負担するせん断耐力には低減係数を乗じる。
以下に本解析モデルに対するせん断耐力の算出結果を示す。
ディープビーム効果を考慮しない通常のせん断耐力(3,264kN)に対し,効果を考慮する場合は約4倍の評価(12,968kN)となる。
4.解析結果
以降に解析結果を示す。
荷重-変位関係は図-3の通りであり,ディープビーム効果を考慮しない通常の算出方法で得られるせん断耐力を大きく超過し,ディープビーム効果を考慮した算出方法から得られるせん断耐力をやや上回るものの,おおむね荷重ピーク値は再現できることが確認できる。
水平変位が1㎜,4㎜,8㎜,9㎜時の変形図は図-4の通りで,左下の引張領域の塑性変形の後,載荷点と右下の圧縮領域を結ぶ斜め方向へ変形が進行することがわかる。
水平変位が1㎜,4㎜,8㎜,9㎜時の鉄筋コンター図は図-5の通りで,荷重ピークの8㎜時で主鉄筋の応力度の最大値は244N/㎜2で降伏点345N/㎜2に達していない。9㎜時では,斜めひび割れによる応力再配分の影響で,主鉄筋の応力度が小さくなり,帯鉄筋の応力度が大きくなり一部,降伏点に達していることがわかる。
水平変位が1㎜,4㎜,8㎜,9㎜時の最小主ひずみコンター図は図-6の通りで,左下の引張域のひずみが卓越し,その後,8㎜~9㎜時で載荷点から右下の圧縮支点を結ぶ斜め方向のひずみが大きくなり,トラス的な耐荷機構の形成が確認できる。
5.まとめ
今回の解析で,せん断支間比の小さい壁式橋脚に対するせん断耐力のディープビーム効果が再現できた。
設計式よりやや大きな耐力が解析結果で得られたが,これは鉛直荷重による軸方向圧縮力の影響と考えられる。コンクリートが負担できる平均せん断応力度は,軸圧縮応力度が大きくなると一般的に大きくなるが,道路橋示方書の鉄筋コンクリート橋脚のせん断耐力の算出においては,この影響は考慮しないものとされている。これは正負交番繰返し作用を受け塑性化が生じるような部材に対しては,軸方向圧縮力がコンクリートの平均せん断応力度に及ぼす影響については十分に解明されていないためであり,今後知見が増えれば,さらにせん断耐力を合理的に評価できる余地があると考えられる。
《参考文献》
1)既設橋梁の耐震補強工法事例集(H17海洋架橋・橋梁調査会)
2)道路橋示方書・同解説Ⅳ下部構造編(H29日本道路協会)
3)道路橋示方書・同解説Ⅴ耐震設計編(H29日本道路協会)
(縞)